国税・富裕層 国境なき戦い 租税回避摘発へ海外55万口座包囲 (日本経済新聞 12/14 朝刊)

日本経済新聞朝刊で以下の記事が掲載されていました。

国税庁は2018年秋、日本人や日本の法人などが海外64カ国・地域に持つ約55万件の金融口座情報を入手した。租税回避地(タックスヘイブン)も含まれ、富裕層の海外資産の把握に有効とされる。今後、国税当局がグローバルを舞台にした脱税や租税回避策の解明を進めていく中、既に対策に動き出した富裕層も出てきた。


問い合わせ急増
「申告していない海外資産がある。相談できますか?」。税理士法人「ネイチャー国際資産税」(東京・中央)には富裕層からの問い合わせが年間で数十件寄せられ、現在も相談が相次ぐ。タックスヘイブンとして知られるバージン諸島などに数億円規模の預金や債券を保有しているケースが多いという。同法人の芦田敏之代表税理士は「海外だから、ばれないだろうという意識はもう通用しない時代になってきた。今後も海外資産に関する問い合わせは増えてくるだろう」とみる。
相談急増の背景には、経済協力開発機構(OECD)で策定されたCRS(共通報告基準)という新制度に18年から日本が参加したことにある。各国の税務当局が、自国の金融機関に外国に住む顧客(非居住者)の口座情報を報告させ、交換できる制度だ。顧客の住所、口座残高などが対象となり、隠し口座の発覚など海外資産が「ガラス張り」になる可能性がある。
これまでの国税当局の調査では個人口座の特定に至るまで難航するケースも多いとみられる。例えば過去には別件を装って、本命の脱税事案の関連情報を探る手法である「横目」を駆使。1993年には自民党の金丸信氏を脱税で摘発した。CRSが大きく異なるのは、口座残高などの情報が自動的、電子的、義務的に毎年大量に寄せられるという点だ。
国税当局は、5千万円超の海外資産の記載を義務付けた「国外財産調書」などと、CRSの情報などを照合し、富裕層の海外資産への課税に力を入れる。「武器となることは間違いない。多額で時効が迫っているようなものに目を付けていくだろう」(国税OBの税理士)
海外の税逃れに対する包囲網が狭まる中、対策を講じる動きも活発化している。「あなたの口座情報を日本の国税当局に提供します」。17年ごろから、海外の金融機関に口座を持つ日本の富裕層などに、こんな趣旨の手紙が届いている。金融機関がCRSに基づき顧客情報を税務当局に報告することの確認を事前通知しているとみられる。
富裕層を顧客に持つプライベートバンカーによると、手紙を受け取った人の中には、海外口座を解約する人や新制度では報告対象とはならない海外不動産に資産を組み替える人もいるという。都内の弁護士は「手紙が届いて、慌てて資産回避先を相談してくるような人もいた」と明かした。
強まる監視の目
実際、シンガポールではCRS導入前に顧客の資産を移したなどとして、英系の金融機関が罰金を科せられるような事態も発生。金融当局の公表文には「CRSの報告義務逃れの疑いがある」などと記されており、CRS導入に伴い、海外口座への監視の目は一段と強まっている。
国境をまたぐ租税回避への批判が国際的に高まったのは、2000年代後半。こうした機運の高まりを背景に、OECDや20カ国・地域(G20)での議論を経て、顧客情報の開示に消極的だったタックスヘイブンもCRSの枠組みに参加した。
他方、米国はFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)に基づき、米国人などの口座情報を世界各地の金融機関から集める仕組みがある。そのためCRSには参加しておらず、抜け道は残る。仮想通貨の登場で複雑、高速化する資金の流れをどう把握するかも課題だ。
海外投資を行った富裕層の申告漏れは17事務年度(17年7月~18年6月)で前年度に比べ約2倍の269億円。海外を舞台に租税回避が行われている実態が浮き彫りになった。逃げる富裕層と追いかける税務当局。幾度となく繰り返されてきたイタチごっこが時代や形を変え、また続く。
(川瀬智浄)

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